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スタジオエトセトラの名前と由来

文・向山貴彦

*本稿はスタジオ・エトセトラの十周年記念書籍「10 Years of studio ET CETERA」の前書き『円グラフがつながるところ』から一部を抜粋・再構成したものです。

この十年間、どこへ行っても非常に良く聞かれる質問がある。

「スタジオ・エトセトラって、スタッフ何人いるんですか?」というやつだ。これには本当に答えに困ってしまう。――というのも、厳密にはスタジオ・エトセトラというのは、ぼく自身を含めて、固定したスタッフが一人もいないからだ。敢えて付け加えるなら、いつも「その他大勢」でやっているからこそ「エトセトラ」という名前になっているのかもしれない。基本的には読者第一、能率度外視、全力投球120%で作品を作るやり方をどうも「スタジオ・エトセトラ」と呼んでいる節がある。

ある時期から、ぼくは「スタジオ・エトセトラ」を基本的に会社やグループの名前というより、ある種の考え方だと思っているようだ。好きなことを言い合い、時にケンカをしたり、くやし涙を流したりしながらでも、その時その時に集まった仲間と共に、いっしょうけんめい作品を作り続けること――そんな時間がぼくにとって、「スタジオ・エトセトラ」の時間となっている。

「スタジオ・エトセトラ」の発祥がいつ頃だったかは、ぼくも正直よく憶えていない。「スタジオ」と言って、すぐに浮かぶ初期メンバーが九人ほどいるが、そのうちの七人までが十代を過ごした山口県下関市の出身だ。しかも、五人は同じ中学の同級生でもある。よく夜中遅くまでうちに集まって、くだらないものを作ったり、ボードゲームに夢中になったり、「牛乳を何日ほっておくとチーズになるのか」を実験したり、今なら覚醒剤の影響下でもやらないようなことばかりして、毎日遊んでいた。「強制されたこと(要は勉強)はまったくしないけど、好きなことだったら命を賭けてでもやる」というスタジオの根本的な精神はこの中で築かれていったと思う。と、同時に朝の四時までゲームをしたり、ミスタードーナツとドクターペッパーだけで構成された食生活を三日間続ける、などの悪癖の大半もこの時期の産物だ。言うなれば、今ぼくらが「スタジオ・エトセトラ」と称してやっていることの大半は、この時期にやっていたこととたいして変わらない。規模と予算がほんの少し大きくなっただけの話である。

「スタジオ・エトセトラ」という名前もいつ頃から使っていたのか、良く憶えていない。最古の記述は中学時代に書いた「童話物語」の初期アイディアノートに「スタジオ・エトセトラ制作」という文字がある。この頃から少なくてもぼくの頭の中に名前だけは存在していたようだ。ただ、はっきりとした誕生の瞬間が記憶にないにも関わらず、不思議なことに名前の由来だけはちゃんと憶えている。というのも、その由来は中学時代にずっと抱えていた思いがベースになっていたからだ。
ぼくの中学時代はまだ偏差値教育全盛期で、学校は規則でがんじがらめの窮屈な世界だった。そこでは日常的にみんなにレッテルが貼られていた。「優等生・劣等生」というレッテル。「ガリ勉・不良」というレッテル。「男子・女子」というレッテル。すべての人間のすべての行動がなんらかの種別に区分けされ、整理されていた。「季節の保健だより」などのプリントには必ずと言っていいほど円グラフが描かれ、そこには「進学80%」「就職20%」などというように、ぼくらの意思とは関係なく、頭数だけがすべてのように仕分けされていた。
その窮屈な円グラフの中でも、ぼくはひとつだけ好きな場所があった。どんな円グラフにでも必ず設けられている「その他」の項目である。

どんな窮屈な質問でも「その他」という項目だけは必ずある。もちろん、多い時も少ない時もあるけれど、必ずといっていいほど存在するのが「その他」の項目だ。誰もが何かの質問では必ず「その他」の欄に入るし、「その他」の欄にはどんな答えだって必ずあてはめられる。
「その他」は特別な答え。ルールにとらわれない、常識にとらわれない答え。無限の可能性を秘めた答えとさえいえる。
「その他」は自由であることの象徴。民主主義がちゃんと機能していることの証拠。「その他」である、ということこそが生きていることの証明。

と、同時に「その他」ほど平凡なものもない。
多くのこの世界の人間は特別でも、特殊でもない。「その他」の人たちである。この世界のほとんどの人は「その他」の人たちだ。一部の選ばれた人や、決められたルールにあてはまる人ではなく、いつも「その他」の多くの人へ作品を届けたい。それがぼくらにとって、「その他」であることの誇りだと思う。いつも「その他」という項目に入ることを恐れず、「その他」であることをずっと守っていきたい。


なんのために仕事をしていますか?
  1. お金
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✓ 5. その他(「面白かった」と言ってもらいたくて)


一番大切なものはなんですか?
  1. 命
  2. 家族
  3. 夢
  4. 愛
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もう一度やり直せるとしたら、何を一番やり直したい?
  1. 子供時代
  2. 受験
  3. 就職
  4. 恋愛
5. その他(やり直したくない。今のままでいい)


ぼくらはスタジオ「その他(エトセトラ)」。
世界中に一番たくさんいる「その他」大勢の人間の一人。一番でも二番でもない「その他」の人たちと円グラフの同じ位置に入れることを誇りに思って、これからもずっと「その他」でありたいと思う。