さて、これまでのビデオとノートの世界。楽しんで頂けましたでしょうか。
このノートの存在を知ってから、ここまでとはいかないものの、私もなるべく観た作品の日付とタイトルくらいは記録するようにしています。特に好きな作品には肉球のマークを付けておいたり、スケジュール帳に書き足す程度ですが、案外見返すのが楽しくなっています。
でも、最近の「映画観る」というのは、なんとなく昔と違っていて……。
昔も今も、映画館に行って映画を観るというのは一大イベントです。大画面に迫力の音響という体験は、大型テレビが普及した現在でも得られないものですから、当然です。しかし、「自宅で」映画を観るという行為は、過去の時代においては現代とまたちがった文化でした。なぜなら、自宅で映画を観るには、その前段階として「レンタルショップに行って借りる」行動が必要だったからです。
ここで登場したのが、タイトルにもなっているこのセリフ。「ビデオ借りに行かない?」
どこの世界にも、夜が遅い人々がいます。仕事や勉強、一通り片付いた頃には、もう深夜。ストレスと解放を求める心……。何かしたいけど、それほど選択肢はない。ゲームセンターというほど盛り上がる気力もない。ファミレスくらいはやってるけど、ごはんだけ食べるに出るのもつまらない。そうなった時、十二時近くに開いている楽しい場所と言えば……
そう、レンタルショップ!
深夜の短いドライブと、人の少ないビデオショップの空気。どことなく気だるそうな店員さんに、大きなアニメのポスター。一方で奥のアダルトコーナーには謎のビニールカーテンが吊されていて……大人な感じと、子供っぽい感じが入り交じって、はっきり言って最高でした。そんないろんな楽しみと背徳感が詰まっているのが、この「ビデオ借りに行かない?」という魅惑的な言葉だったのです。
どの映画を借りるか、という選択もまた楽しみでした。その日たまたま出くわした、何の情報もない作品をパケ借りする。そこにはちょっとしたくじ引きみたいな、独特の面白さがありました。自分が選んだ作品が「当たり」ならば誇らしく思えたし、「外れ」ならばそれを無理矢理愛そうとした。今で言う「ガチャ」にも近い感覚で、私たちはビデオを借りていたのです。こういった喜びは、採点表のSCOREには反映されていません。その意味では、「キラートマト」も「血みどろ農夫……」も等しく、私たちに楽しみを与えてくれたと言えます。
ビデオショップ自体にも個性があり、アニメが異常に充実している店や、入り口にDSが当たるクレーンゲームが配置されている店(何故か毎回やってしまう)、はたまた大量入荷しても全巻借りられているウォーキ●グデッドレベルのメガ人気新作が、何故かたいてい一本だけ残っている店(うちの裏手のゲ●)……。あちこち、はしごしてやっと探しているものに巡り会えるのも面白かった。
結局のところ、ビデオであろうがアマフリックスであろうがHu-ネクストであろうが、面白いものは面白いのです。選択にある程度責任が伴うのも同じ。ただそこに、「レンタル」というフィルターが一枚かかっただけ。でもそれは、手間を省くのと同時に、楽しみも少し省いてしまったような気がします。
というわけで、最近映画が面白くないな……いっぱいありすぎて、どれ選んでいいかよく分からないな……そんな風に思っている人は、たまにはお店に行って選んでみるのもいいかもしれません。自分の手で一本を手に取って、お金を出して借りる。そうなると、いやでも観ざるを得ないはず。最初はダルい映画でも、ラストが大盛り上がりになることもあります。意外な作品を選んで、「こういうのが好きだったんだ」と自分に驚くこともあります。どちらにしても新しい発見があることには代わりありません。
ただし、返却期限にはご注意を。 過ぎると、呪いのビデオになってしまいますよ……!!