前回、「金網の向こう」書籍化のお知らせをしたところですが、
それから数日の時が経ち……
そろそろ、もうちょっと。
具体的な知らせが……できるんじゃない?
と、その前に。箸休め的に、こんなのんびりワンパラはいかがでしょうか。
日本の都道府県。大人のみなさん、いくつ確実に言えますか?
うちのスタジオ代表、米軍基地の学校に通った男は、こんな感じです。
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人に言えない日本地理 文:向山貴彦
「名古屋県ってどこにあるんだっけ?」
ぼくが実際にスタッフにした質問である。しかも、これはほんの数年前のことだ。あまりにも周りの連中が引いているので、さては39にもなって「名古屋県」の場所すら分からないのかとあきれられているのだろうと思って、「日本の地理は弱いんだよ」とまで付け足したが、みんな顔を見合わせるだけで、表情が凍り付いていた。一番若い女の子は何か珍しい生き物が部屋に入ってきたような顔でずっとこっちを見ている。ぼくはちょっとむっとして、「名古屋県だよ、名古屋県。何? 誰も知らないの?」と繰り返した。
また、こんなこともあった。
「北海道って県付けるんだっけ?」
こんなのもあった。
「奈良って京都のどのへん?」
これはもう少し若い時だけど、聞いた人には強烈な印象だったらしい。
「四国って九州だっけ?」
どうもギャグで言っていると思われることもあるようだが、誓って言うが、その時にはマジで聞いていたものだ。今日もねこぞうに「餃子の宇都宮市って何県だっけ?」と聞かれて、ためらうことなく「埼玉だろ。おれ、行ったことあるし」と答えたばかりだ。行けるものなら行って見ろよ、埼玉の宇都宮市、と自分に強く突っ込んでおきたい。
そう。ぼくは日本地理が極めて苦手だ。本州の最南端、九州まで5分っていうところで十数年育ったのに、九州の県がつい最近まで「福岡」と「長崎」しか分からなかった。それも両方位置は間違えていた。あと、「別府」という県があった気がしたが、さっき地図で確認したら存在しなかった。たぶんこの「大分」か「宮崎」というのがそれに当たるのではないかと思う。
そんなわけで、いったい自分がどのくらい日本地図を把握しているのか試すために、ネットにある「日本地図ゲーム」をやってみることにした。これは県の形に区切った白地図に、それぞれ正しい県名を書き込んでいくというシンプルなものだ。なんだかんだ言っても、ぼくももうすぐ四十歳。案外、パーフェクトを出してしまうんじゃないかと内心なめてかかっていた。
まずは出身県の山口を書く。余裕だ。でも、さっそくここでちょっと首をひねった。
「山口」のとなりはずっと「広島」だけだと思っていたのだが、地図をよく見ると、何か上にも県があることに気がついた。この県の名前がいくら考えても思い出せない。――いや、いくらなんでもとなりの県である。きっとど忘れしているだけで、答えを見れば「あーあー」と思うだろうとタカをくくっていたが、見てみたら「島根県」。まったく思い当たらない名前だった。大学の時に山形県出身の「島根」というやつがいたが、あれはたぶんなんの関係もないのだろう。
奥さんの出身であるため、何度も行っている四国はさすがに自信を持って書いた。なめるなよ。これでもカーナビだけでいつも車で四国まで行ってるんだから。そう思って答え合わせしたところ、なんと四県を四県ともずらして間違えるという、逆に狙ってもできそうもない間違え方に成功していた。というか、そもそも香川県を「高松県」と書いていた。
関東はもう住んで十数年。しかも成人してからの十数年で、その間、何万キロも車で運転している場所だ。さすがに余裕だろうと思って、県名を埋めていった。東京、神奈川、千葉。少し迷ったけど、中央線の先にあるのだから左の奴が山梨。上はよく通っていた埼玉。おお、順調じゃないかと自分に誇らしく思いながら、何やら上の方にもう三県並んでいることに気がついた。なんだこれは? 関東って、ほかにも県あったっけ? と、その三件に住んでいる方に失礼なのを承知で思った。いや、待てよ。これのうちのひとつって妹が住んでる茨城だろ。そう気がついた。たしか茨城に車で行った時は高速で二時間ほどかかった。所沢は下の道で一時間弱ぐらいだから、だいたいその倍ぐらいの距離にあるはず。でも、どれだ? そしてほかの二つは? もしかして千葉ってもっと上だったか? 電車で二時間半ぐらいと聞いていた静岡も怪しい。そういえば仙台も新幹線ならすぐって聞いてたし、寒いっていうから上の方じゃないのか? 待てよ。仙台って県だっけ? 仙台県? なんか聞いた覚えがない名前だな。だとしたら何県だ?
迷った末に、その三県は左から大学の合宿で行った「長野」、妹の住んでいる「茨城」、そして昔友達が住んでいた「群馬」と書いて答え合わせした。ねこぞうから「バカ? もしかしてバカ?」と聞かれた。
しかし、ここまではまだよかった。これからがいよいよ怪しい。
関西、甲信越、東北。
まず正直に告白しよう。今まで何度もその単語を口にしたり、話題に出た時には相槌を打ってきたが、ぼくは本当のところ、「甲信越地方」が何か分かっていない。場所が分からないのではない。「何か」分からないのだ。もしかしたらフィクションに出てくる場所かもしれない。あるいはいずれかの県の江戸時代の呼び名である可能性もある。たぶん……たぶんだが、きっと関西と関東の間のよくわからないごちゃごちゃしたあたりのどっかだとは思うのだが、もしかしたら山か何かの名前かもしれない。下手したら「甲信越県」の可能性も視野に入れて、今まで三十九年間ごまかしてきた。なので、このあたりの地理は絶望的だ。
おまけに関西も自信がない。ほとんど行ったことがない上に、「名古屋県」が未だにどこにあるか分からない。だいたいの県の名前は言える。「大阪」「京都」「奈良」「和歌山」そして「名古屋が入っている県」だ。もしかしたら全部関西じゃないかもしれないけれど、まあ、ぼく的には関西だ。問題はどれがどこにあるのか皆目検討がつかないことだ。よく下関に帰郷する時に新幹線でこれらの駅を通過するので、漠然と並んでいる順番は分かっている。問題は、新幹線の線路がどう通っているのかがさっぱり分からない事だ。まさかそんなに大回りはしないだろうという推理で、下半分に順番に知っている県を書き入れていったのだが、結果、全滅。静岡県の存在をとばしていたことも致命傷だった。
最後の東北地方はもはや見当がつかない。自信を持って記入したのは北海道ただひとつ。(正直、これも書きながら間違っていたらどうしようかと思っていた。)秋田と青森はどこかにあるはずだ。福島っていうのもあったと思う。問題は仙台が県かどうかだ。なんとか全部書き終わったが、日本海側の県はほとんど真っ白のまま。しょうがないので、いくつか件名を発明して埋めておいた。そんなわけでぼくの住む日本は、北側が「崎陽県」「開高県」「北斗百裂県」「ペガサス流星県」など大変カラフルな地方となった。
答え合わせボタンがあるので、おもむろに押してみると47都道府県中、正解が12県。奥さんの出身県を間違えている上、父方の故郷の山梨、母方の奈良、そして妹が現在在住している茨城も間違えるという逆パーフェクトの凄まじい成績。自分が実際に長期間住んでいた「山口」「東京」「神奈川」と、三葉虫でも間違えないと思われる「沖縄」「北海道」を除き、なんと正解したのは7県だけ。しかも7つのうち半分は当てずっぽうかラッキーで当たったもので、ひとつは漢字を間違えていた。福井県に関してはお住まいの方には大変申し訳ないのだが、生まれて初めて聞いた名前のような気がしてならない。
さすがにこれには自分でも危機感を持ったので、その後、地図帳と三時間にらめっこして、やっと全部の県の位置を覚えた。その際にいくつか驚くべき発見をしたので、それをここに羅列してこのワンパラを終わりたい。
・大阪が思ったより小さかった
・三重県の県庁所在地の名前が誤植かと思った
・正直、愛知県よりも名古屋県の方が覚えやすい気がする
・崎陽県は悪くない名前だと思う
・実は東京も最初場所を間違えかけていた
・島根、福井などの県にお住まいのみなさま、不幸のメールとか送ってこないでください。すみません、反省してます。
・たぶん一月もあれば、また大半は忘れると思う