この夏の終わり、新たな一冊をスタジオ・エトセトラから、みなさまの元へお届けすることになりました。
色々な意味で特別な本です。まず、92歳の作家によるデビュー作です。そして、残念ながら同時に遺作でもあります。それだけでも、不思議な本です。
そのあらすじはというと、こんな感じです。
【あらすじ】
昭和十一年、山梨の片田舎。少年は親戚の家で偶然、一冊の英語の雑誌を見付け、その華やかで自由な世界に心を奪われる。やがて独学で英語の勉強を始めた少年は、米国へ行くことを夢見るようになるが、はからずも時代は米国との全面戦争へ突入しようとしていた。英語は禁止。ドルは違法。徴兵され、体を壊し、無一文になった少年に残されたもの――それはかつて必死で覚えた英語だけだった。まだ米国が月よりも遠かった時代の、真実と奇跡の物語。
そうです。この本は、ツイッターのコラム「うちの親伝説」などでおなじみの、向山貴彦の父・向山義彦が書いた自伝的な小説です。
米寿で全力疾走をこなし、ケンタッキーを五ピース平らげて、90歳にして夜型生活を送る――そんな妖怪のような人が、八十歳後半にして筆を執り、書き下ろした一冊です。
この本は、ほとんどの部分を実人生を基に書かれています。でも、だからといって堅苦しい自伝ではありません。どちらかというと、冒険小説です。
当時誰もが「不可能」と断言した「米国に行く」という夢を、あり得ないハードルの連続を越えて、時につまずきながら、時に這うようにして追い続ける物語です。クライマックスには、感動の大団円も用意されています。
誰しも歩んできた人生のすべて――どんな些細なことであっても、そこには意味があり、無駄ではないことを感じさせてくれる不思議な物語です。
またこの本は、スタジオ・エトセトラの「BFCシリーズ」の読者にも興味深いものになっています。かつて『ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の本』のまえがきの中で、著者・向山淳子は「私はただ好きな人を追って米国に行っただけ」と書いていますが、これはその壮大な裏話です。
さらに、BFCの論法は本作『ちゅうちゃん』の中で主人公ちゅうちゃんが独学で身に付けた英語を基に、妻の淳子が体系化したものです。BFCの源流がどのようにして百年近く前に生まれて、今日のエドと猫の手の中に届いたのかを知ると、きっと驚きます。
そしてこの本は、戦争、貧困、病気……といった多くの不幸を抱えながら、いつも笑顔だった92歳の老人から、夢をいま追っているすべての人に向けた壮大な応援の言葉でもあります。
この本が薬だとしたら、処方箋は特にこんな人におすすめと書いてあるはずです:
・英語が好きなすべての人。
・留学したいと思っているすべての人。
・自分がひそかに抱いている夢が不可能だとあきらめている人。
・もう夢を追うには遅すぎるとあきらめている人。
・そして、生きているのが辛くて、誰かにただ応援してほしい人。
どこからでも人生は逆転できる。
そんな信念を体現しながら人生を生き抜いた向山義彦から、次の世代へ贈る最初にして最後の物語――夏の終わり、八月三十一日に幻冬舎より単行本として全国発売開始です。カバー、および章トビラのイラストはBFCシリーズでおなじみのたかしまてつをが心を込めて書き下ろしています。
夢をあきらめないで。
空の上から届いた優しいメッセージを――この夏、あなたの手に。
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