パイポ

極私的治外法権 〜内藤さんが見ていたら気まずい〜 前編:

春一番が吹き荒れる本日、向山過去ログからのお届けです。長いので前後に分けましたが、分けるほどの内容でもないかな……という気がします。

それでは、レッツえちょぱっぱ!

極私的治外法権 〜内藤さんが見ていたら気まずい〜 前編:

家庭っていうのは怖い。何しろほとんど完全な密室だ。

――いや、別に児童虐待とか、そんな大げさなことを言っているわけではなくて。

覚えがあると思う。親が勝手な独断と偏見で作った「家庭内ルール」のことである。例えば、ぼくの子供の頃の向山家では、今や全国民があたりまえにやっている「シャツの裾をズボンから出す」ということが、宗教上の禁忌のように扱われていた。何しろ、この「シャツが出ている状態」が向山家ではあまりにもよくないことだったので、それを差す専門用語までがあった。「えちょぱっぱ」である。ぼくは長らくこの単語が公式な日本語だと思い続け、小学校で「えちょぱっぱ」になっている奴に向かって「おまえ、シャツがえちょぱっぱになってるぞ」とはやし立て、半年間、あだ名が「えちょぱっぱ」になったことがある。

一応調べてみたが、これは方言ではない。今、グーグルで”えちょぱっぱ”で検索したので確かだ。全世界数億のサイトを調べた結果、検索結果はゼロだった。”山田太郎のバットは汗臭い”でも三件ヒットするグーグルである(全部うちのサイト)。こんな結果は長らくグーグルを使っていても、あまり見たことがないから間違いないと思う。

幼い頃の我が家では大きくなるまで独自ルールだと分からずにやっていたことがけっこうある。

なぜかうちの親は背中を掻くことを「かじる」とよく言っていた。両親どちらかの故郷の方言なのかも知れないが、日本語の作家になった今でも、あまりにもこの言葉が頭に深くインプリントされすぎていて、よく使い間違えてしまう。「ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の本」の冒頭で使った動詞のひとつが「scratched」だったのだが、おかげでこれを訳す時に何度も「猫がエドを『かじった』」と訳してしまい、たかさんが当然のように猫がエドに噛みついている絵を描いてくるので、「ちがう。これはかじってるんだよ!」と言って、スタッフを大混乱に陥れた。ねこぞうが気が付いて、みんなの前でずばり指摘してくれた時には、あまりの恥ずかしさで焼身自殺が頭を過ぎった。

うちの親は長くアメリカに住んでいたせいもあって、時々驚くようなものの知識が欠け落ちていることがあった。料理なども戦後に流行ったものはあまり詳しくなくて、日本に帰ってからもしばらくカレーのルーに気が付かず、ずっとカレー「粉」からカレーを作っていた。(おかげでぼくにはなぜ「子供の好きな料理1位」がカレーなのか理解できなかった。)その親がある時、友達の「内藤さん」の家にぼくを連れて遊びに行った時のことだ。まだ幼いぼくが「お腹が空いた」と騒ぎ出したので、親切な「内藤さん」の奥さんが肉のそぼろを作って、それをご飯にかけて出してくれた。小食だったぼくが、これをひどく気に入ってバクバクと食べたので、両親はその料理の作り方を聞いて帰って、それから時々作ってくれるようになった。

――ここまではいいのだ。問題は両親がその料理の名前を内藤さんに聞かなかったことである。

大変ネーミングのセンスのないうちの親は、その料理のことをそのままずばり「内藤さん肉」ととんでもない名前で呼び始めた。何しろぼくも五歳だったので、これがいかに常軌を逸した料理の名前か分かろうはずもなく、「肉そぼろ」の名前はあっさりとぼくの中では「内藤さん肉」に決定した。

これが生姜焼きとかオムライスなら、少なからず早い段階で気が付く機会もあっただろう。しかし、「肉そぼろ」という単語は実家が弁当屋でも営んでいない限り、そうそう日常に出てくる単語ではない。ぼくは疑問を感じることもなく、そこから小学校五年のある日まで「内藤さん肉」を信じ続けた。

(無駄に後半へ続く……)

ほたるの群れ・次回予告

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