長らく更新が空いてしまいました。ネコゾーです。
年明けのご挨拶もできぬまま、気が付けばもう二月です。そして二月と言えば……そう。受験です。
詳しくはお話しできませんが、明日から始まる中学入試、そして二月全体の都内各私大の入試、私にとってまったく他人事ではありません。なので、ちょっと手に汗をかきながら緊張の夜を過ごしています。
(私が受けるわけではむろんないのですが、その方が緊張する、という気持ちおわかり頂けるでしょうか……)
そんな中、受験に向かうみんなにかけられる言葉はないかな?と、向山の過去エッセイを掘り返しました。
よろしければ、こんな感じで↓少しリラックスして頂けたら何よりです。
がんばれ、受験生のみんな!!
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受験シーズンに向けて 文:向山貴彦
2月。受験シーズン。
全国の受験生の皆さん、生きておられますでしょうか?
寒いし、受験だし、親はノイローゼ気味でうんざりしている頃だと思いますが、「きっとこの会場でこんなに勉強してないのはおれだけだろうな」と思っている人が八割ですから、気にせず突き進んでください。受験直前なのにとなりの席で余裕カマしてiPod聞いている、模試でA判定もらってそうな彼も、大丈夫、実は音楽なんかまるで聞こえてません。「もしここがだめなら、すぐにあっちのB日程受けて、新宿のホテルをキャンセルして池袋に移って」と考えながら、いつまでたっても温かくなってこない指先で鉛筆がちゃんと持てるかどうか心配しているところです。
はい。十五年ぐらいまえのぼくです、それは。ただし、iPodはまだ出ていなかったのでウォークマンですが。
ぼくらの受験シーズンも悲喜こもごもでした。
志望校に受かったやつ、受からなかったやつ、滑り止めも落ちちゃったやつ、受験日に風邪引いて受けられなかったやつ、補欠合格で繰り上がった人、繰り上がらなかった人、一浪、二浪、三浪……けっきょく就職した人……受験日に間違えてうちに遊びに来てた大ちゃん……などなど実に様々な運命に弄ばれた数年間でしたが、あれから十五年が経った今、それが全部どういう思い出になっているかというと……
ほとんど全部がぐちゃまぜになって、まあ、そんな時期があったね、ということで概ね落ち着いています。
自分以外の親しい友達が、誰がどこに受かったとか、正直もう忘れかけています。
あと十年もすれば、記憶はもっと曖昧になると思います。
あの時はたくさん勉強して、模試でも常に上位にいる人がえらい人に見えました。でも、今はその人の名前も思い出せません。代わりに憶えているのは、受験日当日、試験開始前にみんなが緊張している時、おなかが痛くなった女の子を受験時間に遅れる覚悟で医務室へ連れて行った人のことです。ぼくのすぐ後ろに座っている女の子でした。
ぼくは恥ずかしながら、立ち上がって手伝うことができませんでした。第二志望校だったので、もし時間に遅れて落ちたらという不安を感じて、他人の腹痛よりもそっちの方がその時は重大に思えました。きっと、十年も経てばそんな小さな罪悪感も消えて、受かった喜びだけが残るはずだと受験後、自分に言い聞かせていました。
実は、ぼくはあの試験を受かったのかどうかも今、憶えていません。
でもあの時、苦しんでいる女の子に受験会場でただ一人手を差し伸べた人に、女の子が見せた感謝の顔は頭に焼き付いています。 そして、その時、良心の呵責で目をそむけていた、自分をはじめとする他の受験生たちの顔もよく憶えています。あのあと、ずいぶん長い間、あの二人が受かったかどうか気になっていたのですが、今これを書いていて、ふと気がつきました。
それこそ、本当にどっちでもいいことなんだろうな、と。
受験は大事です。そして、とっても大変です。
そうじゃないなんて、絶対に思いません。
でも、一見結果しか大事に見えないこの人生の大イベントで、肝心の結果が思い出せないことに驚いています。
本当に不思議なものです。
受験生の皆さん、体にだけは気をつけて。
良い結果を祈っています。
でも、それは試験の結果ではなくて、この時期が人生に与える結果です。
今、日本で一番大変な毎日を送るみなさんにどうか幸運を。
十年後、「笑い話として受験を振り返る会」でお会いしましょう。