みなさま、こんにちは。本日の更新はホワイトデーに関するエッセイです。
え、知ってた? なんで分かったんだろう? タイトルしか出してないのに。
ちなみに作者は、我らが向山貴彦です。ホワイトデー当日に公開予定だった(か、もしくは実際に公開された)一本を、今日がホワイトデーのつもりで、ぜひどうぞ!
ホワイトデーの極太一本おろし 文:向山貴彦
「ホワイトデー」という、いつまで経っても、今ひとつ煮え切らないイベントがある。
今日のことである。
女の人の大半はすでに今日がホワイトデーであることに気がついていると思うが、男性の多くは上の文を見た瞬間に「やべ。今日だっけ。あちゃあ。」と思っているはずだ。大丈夫。あなただけではない。あなたの職場(学校)で今日のために前日から何かを用意しているのはあのいけすかない○○ぐらいのものである(○○には適切な名前を入れてください)。
もっとも、○○はだからあなたと違って女の子にもてるのは確かなのだが。
バレンタインの前日のデパートの入口付近や、催物会場を見たことがある方なら誰でも分かると思うが、あちらの賑わい方といったら尋常ではない。この時とばかりに世界中のチョコレートメーカーが日本に集まってきて、やれ「ピエール」とか「ジョファンヌ」とかいう軟弱な名前のシェフが作ったチョコレートを宣伝している。チョコの名前もみんな「天使の誘惑」とか「まどろみの時間」のような名前で、間違っても「大郷院源三郎」の「極太一本おろし」などというネーミングはあり得ない。
バレンタインはとにかく盛り上がる。老若問わず、あらゆる世代の女性が真剣な眼差しで、一粒でインフルエンザワクチンが一回接種できるような値段のチョコを物色している。もう、レジの周辺はほとんど戦争だ。
対して、そのお返しであるはずのホワイトデー。
念のために町に出て確認してみたが、明らかに盛り上がっていない。どこの店の特設売り場も、探さないと見つからないぐらいひっそりしている。見て回った三軒のお菓子屋では、どこも「ホワイトデー用チョコ」は一種類しか置いていなかった。売る気がないのだろう、と思ったあなたは女性である。
そうではない。バレンタインに彼女、あるいは奥さんにチョコをもらって、今日の今日までお返しを買うのを忘れていて、たった今職場でこれを休憩時間に呼んで、今あわててその店へとんでいった男たちの思考はこうである。
「ホワイトデー、何買えばいいんだ? ああ、考えるのめんどくせー。誰か選んでくれないかなあ。あ、これホワイトデー用じゃん。これでいいや。」
万が一、そこに複数のチョコでも用意しておこうものならこうである。
「うわあ、三つもあるよ。あいつ、こういうのうるさいからな。まいったな。ああ、もうめんどくせー。あとにしよ。」
男には、ピエールが作ったチョコをもらうことが、なぜそんなにうれしいのかさっぱり分からない。これが開幕戦のチケットやゲームボーイのソフトならぜんぜん話は別だ。しかし、チョコである。(男の頭をよぎること:「チョコってあのコンビニにいっぱい売ってるやつだろ。よく知らんけど。)
同様に、3000円からしか作ってくれない花束(送料別)も、なんか読めない横文字が描いてある「ポーチ」という何によく使うかわからんカバンも(「ヘルメス? モビルスーツの名前か?」)、クレヨンと良く似ているのに値段だけは五百倍以上高いリップスティックも(「えっ、これみんな違う色なの? 全部赤じゃん」)、全部分からない。そして、さっぱり分からないことにも関わらず、やっておかないと怒られるので、必死に分からないまま毎年やっているので、大変に面倒になってくる。
女の人なら、これを聞いて思うはずだ。
「バレンタインだって一種の愛情表現じゃない。大事なことよ。」
しかし、男の方も思う。
「じゃあ、一緒にナイター見ようぜ。そっちもおれと一緒に阪神への愛を分かち合おうぜ。」
大半の男性はホワイトデーのある三月や、彼女の誕生日のある月に入ると、憂鬱な気分になる。確かに彼女らは「気持ちだけでうれしいよ」とは言ってくれる。だが、もし本当に気持ちだけだったら、絶対に激怒することも、ほとんどの成人男性は知っている。
また、どんなに気持ちがこもっていても——もうそれこそ、底知れないほど愛を込めたとしても、1/144スケールのシャア専用ザクのプラモデルでは絶対に喜ばないこともよく知っている。もっとも、なぜかはよく分からない。限定版の、しかもシャア仕様のレアな赤いモビルスーツなのに! 関節48箇所駆動のスケールキットよりも、なぜピエールのチョコの方がいいのかがまるで分からない。
店で三十分ぐらいどれが「女の子受け」するチョコか迷っていると、そもそもこんな習慣が存在することに腹が立ってきて、できることならピエールにヘッドロックをかけて、鼻の穴にRX-78ガンダムのビームラーフルを六本ぐらい詰め込んでやりたくなってくる。
でも、それでもみんな悪戦苦闘しながらもなんとかチョコを買ってきて、彼女/奥さん/不倫相手にドキドキしながら渡し(「ゴダイバって有名なとこなんだろうか? もしかして「お台場」のフランス語読みとかじゃないだろうな。でも、売り場で一番高いやつだったからたぶん大丈夫だろう。ああ、頼むよ「ゴダイバ」。高級ブランドであってくれ!!」)、ドキドキしながら開けている女の子の顔をのぞき込む。
「わー、これゴディバじゃない。高かったでしょー。」
「え? ああ、まあね。そ、そう。ゴディバだよ、ゴディバ。はははは。」
「ありがとう! うれしい!」
「まあ、ついでがあったから」
(↑ついで=「片道一時間半かけて、新宿の高島屋まで行って、一時間ぐらい迷うことの意」)
そんなわけでホワイトデー。
もしあなたの不器用で面倒くさがり屋の愛する男性が、妙に斜に構えた姿勢で今年もチョコを渡してきたら、たとえ中身がM&Mでも、にっこり笑って「これほしかったチョコだ」と言ってあげてください。信じられないかも知れませんが、それでもがんばったんです、彼は。
すっかり忘れられてしまったあなた。
忘れたことと、彼の愛情とはなんの関係もありません。断固として、結びつけて考えないでください。それでも不安ならすねてみせてください。三日も無言で通せば、四日目ぐらいには気がつくはずです。思い出させるためのさりげないヒントぐらいは必要になるかもしれません。(例:「なんか白くて甘いものが足りない気がする。」)
ただ、ひとつだけ注意してほしいことがあります。
実は男がホワイトデーを忘れたときの言い訳として、ひとつ典型的なものがあります。
「知ってる? ホワイトデーなんて世界で日本しかないんだぜ。おれは日本の製菓会社の策略に踊らされるのがきらいなだけさ。」
これは明らかに嘘です。
なぜなら男が本当にメーカーの策略に踊らされるのが嫌いなら、ドラクエの発売日に朝からゲーム店の前で300人の行列が出来るわけがありません。もし彼の言葉を信じそうになったら、ゲーム屋の行列のうち、何人が男か数えて見ればすぐに分かるかと思います。
Happy White Day!!