パイポ

極私的治外法権 〜内藤さんが見ていたら気まずい〜 後編:

伝説の向山コラム「内藤さん肉」回、後編です! 前編を未読の方、「えちょぱっぱ」が何か分からないという方は、ぜひ前編をお読みになってからお楽しみ下さい!(でもほんと、特に二回に分ける必要なかったなって思ってます。ごめんなさい)

極私的治外法権 〜内藤さんが見ていたら気まずい〜 後編:

さらに厄介なことに、我が家ではお漬け物――特に大根の葉などの葉っぱものの一夜漬けを「おこうこ」と呼んでいた。これは西の方のれっきとした方言らしいが、問題はこの大根の葉っぱの漬け物で「内藤さん肉」を巻いて食べるのが向山家でブームになったことだ。その食べ物のことをぼくらは誰からともなく「内藤さん肉おこうこ巻き」という地下プロレスの必殺技のような名前で呼んでいた。

もう概ね顛末は想像できると思うが、ある時、高菜の漬け物とそぼろご飯が友達の家で出て来たことがあった。ぼくが当然のように高菜でそぼろご飯を巻き始めると、友達たちは怪訝な顔でぼくの方を見始めた。

「何してんの?」と聞かれたぼくは前述の「えちょぱっぱ」の経験でまったく学習しておらず、胸をはって「なんだ、おまえら知らないのか――」と、口を開き始めた。後日、ぼくは当然のようにあだ名が「内藤さん肉」になり、給食で肉を食べていると、それが何の肉であろうと、「向山が内藤さん肉食ってる」とはやし立てられた。

その後も小学校六年の時に「耳掃除の麺棒」を「耳くちゅくちゅ棒」と呼んで自爆したり、コーヒーが十八歳以下禁止の飲み物だと思わされていたために、コーヒーを飲んでいた友達に「やめろ! 逮捕されるぞ!」と止めに入って、「コーヒー刑事(デカ)」というあだ名ももらった。本は大事なものだからどんなものでも古本屋に売ってはいけないというルールもあった。ジャスコに一回行くと、50円のゲームを一回してもいいというルールもあった。お祭りの屋台ではリンゴ飴だけは買ってはいけないという禁もあった。

ルールはほかにもたくさんあった。そして、面白いことに未だに抜けないものもいくつか残っている。

 緑茶はマグカップで大量に入れること。

 家族の送り迎えは喜んでやること。

 人が来たら座れるところをいつも作っておくこと。

 家はとにかくドアの少ない作りにして、できるだけ大きな部屋にみんなでいること。

 出かける時は必ず家族に「気を付けて」と声をかけること。

 そして、何よりも大事なルールは、ルールを破った時はちゃんと謝ること。

この最後のルールは子供だけでなく、大人にも適用されていた。うちの母親は三十を越えたぼくに、ある時ふいに思い出したように、小学校の時に一回理不尽にしかったことがあった、と謝ったことがある。もちろんぼくの方はそんなことはずっと前に忘れていたのだが、母親はそれを長い間悔いていたらしい。我が家のルールがちゃんと機能していた何よりの証拠だと思う。

これらのルールはぼくにとって、今も少しも変わっていない。おそらく妹のところでも、そんなには違わないで運用されていると思う。願わくば温かいルールに従って、生涯を過ごしていきたいと思う。変わらなくていいものは変わらなくてもいいのだ。たとえ、それでどんな変なあだ名を付けられたとしても。

ただ、最後にひとつ、今日から変わることもある。それはこれからグーグルで”えちょぱっぱ”を検索する人は、確実に一件、サイトがヒットするようになることだ。

極私的治外法権 〜内藤さんが見ていたら気まずい〜 前編:

春一番が吹き荒れる本日、向山過去ログからのお届けです。長いので前後に分けましたが、分けるほどの内容でもないかな……という気がします。

それでは、レッツえちょぱっぱ!

極私的治外法権 〜内藤さんが見ていたら気まずい〜 前編:

家庭っていうのは怖い。何しろほとんど完全な密室だ。

――いや、別に児童虐待とか、そんな大げさなことを言っているわけではなくて。

覚えがあると思う。親が勝手な独断と偏見で作った「家庭内ルール」のことである。例えば、ぼくの子供の頃の向山家では、今や全国民があたりまえにやっている「シャツの裾をズボンから出す」ということが、宗教上の禁忌のように扱われていた。何しろ、この「シャツが出ている状態」が向山家ではあまりにもよくないことだったので、それを差す専門用語までがあった。「えちょぱっぱ」である。ぼくは長らくこの単語が公式な日本語だと思い続け、小学校で「えちょぱっぱ」になっている奴に向かって「おまえ、シャツがえちょぱっぱになってるぞ」とはやし立て、半年間、あだ名が「えちょぱっぱ」になったことがある。

一応調べてみたが、これは方言ではない。今、グーグルで”えちょぱっぱ”で検索したので確かだ。全世界数億のサイトを調べた結果、検索結果はゼロだった。”山田太郎のバットは汗臭い”でも三件ヒットするグーグルである(全部うちのサイト)。こんな結果は長らくグーグルを使っていても、あまり見たことがないから間違いないと思う。

幼い頃の我が家では大きくなるまで独自ルールだと分からずにやっていたことがけっこうある。

なぜかうちの親は背中を掻くことを「かじる」とよく言っていた。両親どちらかの故郷の方言なのかも知れないが、日本語の作家になった今でも、あまりにもこの言葉が頭に深くインプリントされすぎていて、よく使い間違えてしまう。「ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の本」の冒頭で使った動詞のひとつが「scratched」だったのだが、おかげでこれを訳す時に何度も「猫がエドを『かじった』」と訳してしまい、たかさんが当然のように猫がエドに噛みついている絵を描いてくるので、「ちがう。これはかじってるんだよ!」と言って、スタッフを大混乱に陥れた。ねこぞうが気が付いて、みんなの前でずばり指摘してくれた時には、あまりの恥ずかしさで焼身自殺が頭を過ぎった。

うちの親は長くアメリカに住んでいたせいもあって、時々驚くようなものの知識が欠け落ちていることがあった。料理なども戦後に流行ったものはあまり詳しくなくて、日本に帰ってからもしばらくカレーのルーに気が付かず、ずっとカレー「粉」からカレーを作っていた。(おかげでぼくにはなぜ「子供の好きな料理1位」がカレーなのか理解できなかった。)その親がある時、友達の「内藤さん」の家にぼくを連れて遊びに行った時のことだ。まだ幼いぼくが「お腹が空いた」と騒ぎ出したので、親切な「内藤さん」の奥さんが肉のそぼろを作って、それをご飯にかけて出してくれた。小食だったぼくが、これをひどく気に入ってバクバクと食べたので、両親はその料理の作り方を聞いて帰って、それから時々作ってくれるようになった。

――ここまではいいのだ。問題は両親がその料理の名前を内藤さんに聞かなかったことである。

大変ネーミングのセンスのないうちの親は、その料理のことをそのままずばり「内藤さん肉」ととんでもない名前で呼び始めた。何しろぼくも五歳だったので、これがいかに常軌を逸した料理の名前か分かろうはずもなく、「肉そぼろ」の名前はあっさりとぼくの中では「内藤さん肉」に決定した。

これが生姜焼きとかオムライスなら、少なからず早い段階で気が付く機会もあっただろう。しかし、「肉そぼろ」という単語は実家が弁当屋でも営んでいない限り、そうそう日常に出てくる単語ではない。ぼくは疑問を感じることもなく、そこから小学校五年のある日まで「内藤さん肉」を信じ続けた。

(無駄に後半へ続く……)

怖くない怖い話

先日あった、怖い話をお届けしたいと思います。

我が家では、ほとんど全ての部屋にティッシュが置いてあります。家人がものぐさで、ティッシュを取りに移動する労力を極力省きたいというナマケモノ以下の理由から、こういうシステムとなっています。

このシステム、便利です。でも一つ欠点があります。それは、ティッシュの全体消費量が把握しきれないことです。仮になくなりかけていても、「どこかの部屋のは残っているだろう」という思考が働いてしまうのです。

居間にはなくても、寝室には……

寝室にはなくても、キッチンには……

と探し回り、最終的にいつも残っているのはたった一カ所。洗面所にある、洗濯機の横の棚のティッシュです。ここになければ、この家にティッシュはもうない。そう言えるほど、確実な最後通牒のような存在として、その場所にはいつもティッシュがあるはずでした。

数日前にこの場所のティッシュが切れた時。さすがにやばいな、と思って買いに行った記憶があります。そして入れ替えた記憶も。それなら、ここには新品のティッシュが一箱あるはず……なのに……

ない……。

一瞬考えて、思い当たりました。洗濯用の洗剤はいつも、ティッシュの横に置いてあります。洗濯機は数分前に回したばかり。

さっき洗剤を取ったとき、何か引っかけなかったか?

大量のタオルや衣類がクッションになっていたけど、洗濯機の中に何か、軽いものが落ちたような音がしなかったか?

ガタガタ、という洗濯機の音が響きます。ゴウンゴウン、と音が変わりました。あと数分で、ピーッと「洗濯終了」の音が鳴るでしょう。

蓋を開けた時、そこには……

※今日のコラムには、うそが含まれています。

1.「先日」の話ではなく、現在です。

2.「怖い話」というのも、うそです。本当に怖いのは、いつだって現実です。

Happy White Day from…

… Gokurayama.

いつもありがとうございます。一気にあたたかくなり、あの町にも春の気配が訪れたようです。

先月のバレンタインデーに頂いたチョコのお礼と、春の挨拶を兼ねて、久しぶりに永児がやって来てくれました。

こちらの画像はお近くのセブンイレブンで、ネットプリントにて印刷して頂くことが可能です。一枚につき、用紙の費用が60円かかってしまうことのみ、どうぞご了承ください。

★予約番号32755271、はがき カラー:60円

期限は2022/03/19迄となっております。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。

studio ET CETERA 2022

ホワイトデーの極太一本おろし。

みなさま、こんにちは。本日の更新はホワイトデーに関するエッセイです。

え、知ってた? なんで分かったんだろう? タイトルしか出してないのに。

ちなみに作者は、我らが向山貴彦です。ホワイトデー当日に公開予定だった(か、もしくは実際に公開された)一本を、今日がホワイトデーのつもりで、ぜひどうぞ!

ホワイトデーの極太一本おろし 文:向山貴彦

「ホワイトデー」という、いつまで経っても、今ひとつ煮え切らないイベントがある。

今日のことである。

女の人の大半はすでに今日がホワイトデーであることに気がついていると思うが、男性の多くは上の文を見た瞬間に「やべ。今日だっけ。あちゃあ。」と思っているはずだ。大丈夫。あなただけではない。あなたの職場(学校)で今日のために前日から何かを用意しているのはあのいけすかない○○ぐらいのものである(○○には適切な名前を入れてください)。

もっとも、○○はだからあなたと違って女の子にもてるのは確かなのだが。

バレンタインの前日のデパートの入口付近や、催物会場を見たことがある方なら誰でも分かると思うが、あちらの賑わい方といったら尋常ではない。この時とばかりに世界中のチョコレートメーカーが日本に集まってきて、やれ「ピエール」とか「ジョファンヌ」とかいう軟弱な名前のシェフが作ったチョコレートを宣伝している。チョコの名前もみんな「天使の誘惑」とか「まどろみの時間」のような名前で、間違っても「大郷院源三郎」の「極太一本おろし」などというネーミングはあり得ない。

バレンタインはとにかく盛り上がる。老若問わず、あらゆる世代の女性が真剣な眼差しで、一粒でインフルエンザワクチンが一回接種できるような値段のチョコを物色している。もう、レジの周辺はほとんど戦争だ。

対して、そのお返しであるはずのホワイトデー。

念のために町に出て確認してみたが、明らかに盛り上がっていない。どこの店の特設売り場も、探さないと見つからないぐらいひっそりしている。見て回った三軒のお菓子屋では、どこも「ホワイトデー用チョコ」は一種類しか置いていなかった。売る気がないのだろう、と思ったあなたは女性である。

そうではない。バレンタインに彼女、あるいは奥さんにチョコをもらって、今日の今日までお返しを買うのを忘れていて、たった今職場でこれを休憩時間に呼んで、今あわててその店へとんでいった男たちの思考はこうである。

「ホワイトデー、何買えばいいんだ? ああ、考えるのめんどくせー。誰か選んでくれないかなあ。あ、これホワイトデー用じゃん。これでいいや。」

万が一、そこに複数のチョコでも用意しておこうものならこうである。

「うわあ、三つもあるよ。あいつ、こういうのうるさいからな。まいったな。ああ、もうめんどくせー。あとにしよ。」

男には、ピエールが作ったチョコをもらうことが、なぜそんなにうれしいのかさっぱり分からない。これが開幕戦のチケットやゲームボーイのソフトならぜんぜん話は別だ。しかし、チョコである。(男の頭をよぎること:「チョコってあのコンビニにいっぱい売ってるやつだろ。よく知らんけど。)

同様に、3000円からしか作ってくれない花束(送料別)も、なんか読めない横文字が描いてある「ポーチ」という何によく使うかわからんカバンも(「ヘルメス? モビルスーツの名前か?」)、クレヨンと良く似ているのに値段だけは五百倍以上高いリップスティックも(「えっ、これみんな違う色なの? 全部赤じゃん」)、全部分からない。そして、さっぱり分からないことにも関わらず、やっておかないと怒られるので、必死に分からないまま毎年やっているので、大変に面倒になってくる。

女の人なら、これを聞いて思うはずだ。

「バレンタインだって一種の愛情表現じゃない。大事なことよ。」

しかし、男の方も思う。

「じゃあ、一緒にナイター見ようぜ。そっちもおれと一緒に阪神への愛を分かち合おうぜ。」

大半の男性はホワイトデーのある三月や、彼女の誕生日のある月に入ると、憂鬱な気分になる。確かに彼女らは「気持ちだけでうれしいよ」とは言ってくれる。だが、もし本当に気持ちだけだったら、絶対に激怒することも、ほとんどの成人男性は知っている。

また、どんなに気持ちがこもっていても——もうそれこそ、底知れないほど愛を込めたとしても、1/144スケールのシャア専用ザクのプラモデルでは絶対に喜ばないこともよく知っている。もっとも、なぜかはよく分からない。限定版の、しかもシャア仕様のレアな赤いモビルスーツなのに! 関節48箇所駆動のスケールキットよりも、なぜピエールのチョコの方がいいのかがまるで分からない。

店で三十分ぐらいどれが「女の子受け」するチョコか迷っていると、そもそもこんな習慣が存在することに腹が立ってきて、できることならピエールにヘッドロックをかけて、鼻の穴にRX-78ガンダムのビームラーフルを六本ぐらい詰め込んでやりたくなってくる。

でも、それでもみんな悪戦苦闘しながらもなんとかチョコを買ってきて、彼女/奥さん/不倫相手にドキドキしながら渡し(「ゴダイバって有名なとこなんだろうか? もしかして「お台場」のフランス語読みとかじゃないだろうな。でも、売り場で一番高いやつだったからたぶん大丈夫だろう。ああ、頼むよ「ゴダイバ」。高級ブランドであってくれ!!」)、ドキドキしながら開けている女の子の顔をのぞき込む。

「わー、これゴディバじゃない。高かったでしょー。」

「え? ああ、まあね。そ、そう。ゴディバだよ、ゴディバ。はははは。」

「ありがとう! うれしい!」

「まあ、ついでがあったから」

(↑ついで=「片道一時間半かけて、新宿の高島屋まで行って、一時間ぐらい迷うことの意」)

そんなわけでホワイトデー。

もしあなたの不器用で面倒くさがり屋の愛する男性が、妙に斜に構えた姿勢で今年もチョコを渡してきたら、たとえ中身がM&Mでも、にっこり笑って「これほしかったチョコだ」と言ってあげてください。信じられないかも知れませんが、それでもがんばったんです、彼は。

すっかり忘れられてしまったあなた。

忘れたことと、彼の愛情とはなんの関係もありません。断固として、結びつけて考えないでください。それでも不安ならすねてみせてください。三日も無言で通せば、四日目ぐらいには気がつくはずです。思い出させるためのさりげないヒントぐらいは必要になるかもしれません。(例:「なんか白くて甘いものが足りない気がする。」)

ただ、ひとつだけ注意してほしいことがあります。

実は男がホワイトデーを忘れたときの言い訳として、ひとつ典型的なものがあります。

「知ってる? ホワイトデーなんて世界で日本しかないんだぜ。おれは日本の製菓会社の策略に踊らされるのがきらいなだけさ。」

これは明らかに嘘です。

なぜなら男が本当にメーカーの策略に踊らされるのが嫌いなら、ドラクエの発売日に朝からゲーム店の前で300人の行列が出来るわけがありません。もし彼の言葉を信じそうになったら、ゲーム屋の行列のうち、何人が男か数えて見ればすぐに分かるかと思います。

Happy White Day!!

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